KSR v. TELEFLEX判決速報
―自明性に関する米国最高裁判所判決―



 これまで米国連邦裁判所は、特許性判断において複数の引用例に基づきクレームが自明であると判断する際、Graham v. John Deere Co.で示された「teaching, suggestion, or motivation test (TSM test)」を使用してきた。つまり、引用例、あるいは、問題の性質、当業者の知識において、引用例を組み合わせるための動機、示唆があれば、これらの引用例に基づきクレームは自明であると判断するものである。この判決では、このTSMテスト自体の有効性が争われおり、今後の特許性判断に大きな影響を与えるため、米国最高裁判所の判断が注目されていた。

 本件の事実審である地裁では、TSMテストに基づき自明であり特許無効であると判断したが、その控訴審である米国連邦巡回控訴裁判所(以下CAFCという)は「特許権者が解決しようとしている正確な問題を従来技術が示していない限り、その問題が当業者にその従来技術を見させることとはならない」と述べ、地裁の(発明の問題の本質により、その(TMSテストの)要件を満たしたとする)判断は誤りであるとし、また、「obvious to try the combination(組み合わせを試してみることは自明である)」と言う点は、本件では無関係であると判示した。なお、米国最高裁判所は、CAFCの判断を狭い、厳格な基準であるとみなしている。

 今回の判決で米国最高裁判所は、「自明性の判断においては、CAFCが判示したように特許権者にとって組み合わせが自明か否かではなく、当業者にとって自明か否かで判断しなければならない」とし、また、形式的なTMSテストは不適当であり、巡回控訴裁判所が示した狭い厳格なTMSテストの適用した点で誤りを犯したと判断した。ただし、TMSテスト自体を否定したのではなく、CAFCのTMSテストの適用の仕方を否定したに過ぎず、TMSテストは先例に反するものではない。

 さらに、最高裁判所は、「公報や特許に明示された事項を重要視しすぎてはならず、例えば科学文献などによりその傾向をつかむことができる。そして、その分野で知られている、あるいは、その特許に記載される必要性(need)や問題に基づいて、組み合わせができるか否かを判断しなければならない」と判示した。また、米国最高裁判所は、「obvious to try the combination」は無関係である」とする連邦巡回控訴裁判所の判断を否定し、その可能性を認めた。最終的に、米国最高裁判所は、上記ルールを本件に適用し、問題のクレームは自明であると判断した。

 このように、米国最高裁判所は、TMSテストを廃止するのではなく、より広い観点でTMSテストを適用している。今後、下級審である、連邦地方裁判所や連邦巡回控訴裁判所の判決で具体的な方向性が見えてくるものと予想される。

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http://www.supremecourtus.gov/opinions/06pdf/04-1350.pdf



今泉 俊克(いまいずみ としかつ)
 米国弁護士(1962年生)。1985年中央大学理工学部電気工学科卒業後、1985年-1995年(株)リコー法務本部勤務。1995年-1998年駐在員としてRicoh Corporationに勤務。 1997年米国パテントエージェント試験合格。Franklin Pierce Law Center卒業。2003年ワシントンDCの司法試験合格。現在、DITTHAVONG MORI & STEINER, P.C.で、主に特許、意匠、商標出願の権利化手続き、鑑定、法案の調査、判例に基づく米国出願用英文明細書の作成を行っている。