管理型知財信託〜どうして必要なのか

信託業法が昨年末施行され、にわかに知財信託の問題がクローズアップされている。それとともに、なぜ管理型知財信託が必要なの?という疑問も聞かれるところである。そこで、要点を簡単にQ&A形式でまとめてみた。


Q:そもそも管理型知財信託ってなに?

A:事業部の分社化・研究所の子会社化という流れのもと、今や大企業は単一法人で成り立っているのではなくて、複数の企業グループを形成していることが一般的です。そのような企業グループの知的財産権をグループ内で設立した知財信託会社に信託譲渡し、一括して管理しようというのが管理型知財信託です。


Q:どうしてグループ内の知的財産権を一括管理することが必要なの?

A:知的財産権を一括管理することは法律で義務づけられているわけではなく、各企業のポリシーの問題です。しかし、知的財産権をグループ企業内で一括管理することは以下のような点でメリットがあるといわれています。

  • 子会社ごとに別々に知財管理を行うと、人員やシステムなどのコストがかかる。
  • 研究所の子会社化など、もともと親会社の知財部が管理を担当したケースにおいては、別法人になったからといって管理を別にするのはかえって煩わしい
  • 子会社の権利を含めた多くの知財権を集中できるので、知財ポートフォリオが強力になり、対外交渉のときに有利
  • 子会社は親会社の訴訟や交渉などの比較的高度なノウハウを活用したいが、そのためには一括管理されていた方が簡明


Q:一括管理することによるデメリットはないの?

A:信託スキームを用いないといろいろなデメリットがあります。一つ一つ説明していきましょう。

まず、一括管理の形態として、(1)子会社の知財権を親会社に譲渡する方式と、(2)権利譲渡を介在させずに親会社が子会社知財を受託管理する方式の二つに分けられます。

(1)子会社の知財権を親会社に譲渡する方式の場合、本来財産権の移転ですので、譲渡対価を適性に定める必要があります。ところが、皆様もご存じのとおり、知財権の正確な評価は非常に難しく、正確にやればやるほどコストもかかります。現在、多くの企業では子会社→親会社間で無償譲渡を行っているようですが、このような実務は税務上は寄付金として認定され、課税を受ける危険性があります。

次に、今話題の職務発明の問題です。仮に、譲渡時に知財権の価値が適性に評価されたとしても、将来生じる全ての価値までは算定できません。そこで、子会社の発明者はその発明について将来得るべき利益については報奨算定の対象外となってしまいます。会社からすると、報奨が下がる点はいいのかもしれませんが、発明者のモティベーションを下げてしまうという副作用は重大です。

(2)権利譲渡を介在させずに親会社が子会社知財を受託管理する方式は税務上の問題を生じません。しかし、子会社の知財権や製品の抵触問題について親会社の知財部員が交渉をしたり、紛争に対応したりすることは、無資格者の法律事務受任を禁じた弁護士法72条1 との関係で微妙な問題を生じるのではと言われています。


Q:管理型信託によればそのような問題はないのでしょうか。

A:信託は知財権の使用者と受益権者を分離するための手法です。信託スキームにおいても、親会社・子会社などの権利者(オリジネータ)はグループ内信託会社に権利譲渡をするのですが、これは信託目的の譲渡なので寄付金認定など税務上の問題を生じることがありません。また、オリジネータは信託会社が取得したロイヤリティ等の受益の分配を受ける権利を引き続き有するので、発明者からすればこの分が「会社が得た利益」として報奨算定の根拠となります。当然、受益権は将来においても続くので、発明の将来価値についても過不足なく反映することが可能となります。信託会社は形式上は権利者となりますから、知財権についてライセンス交渉、訴訟を行うことは当然に合法であり、弁護士法上の問題を生じることはなくなります。



鮫島 正洋(さめじま まさひろ)
 知財評論家。知財に絡む社会の動きを怜悧に捉え、万人にその本質を伝えることをモットーとする。酒と美食を愛し、堕落を旨とするが、知財に対する想いは人後に落ちないと自負する知財エバンジュリスト。表の顔は「弁護士」、知財マネジメント・コンサルを隠れた生業としている。