【コラム】 よい採用,よい転職のために (1)
 〜最近の求人求職活動概況〜



最近,知財業界の求人・求職の動きが,以前に比べて少し落ち着いているようです。

パテントサロンに求人広告を掲載してくださっている特許事務所や企業から,「最近は,パテントサロンに求人広告を出しても,以前に比べて応募が少なくなっている」という声を複数いただいています。

さらに話を聞いてみると,これはパテントサロンだけのことではないようで,他の媒体に求人広告を掲載しても以前のようには応募が来ない,という話も聞きます。求人媒体の方からも同じような話を聞きました。

一方,求人広告を掲載する側でも,掲載件数が以前に比べて少なくなっています。パテントサロンの求人スクエアには,以前は100件を超える求人広告が掲載されていましたが,最近は60〜70件程度です。日々,求人広告の掲載業務を行っていても,掲載依頼が以前より少なくなっていることを実感しています。


求職側にも,求人側にも,変化がある

なぜ,このような状況になっているのでしょうか。

求職者に話を聞いたところ,「コロナ以降,リモートワークや在宅勤務など自由な働き方ができるようになり,職場環境に対する不満が以前より少なくなった。そのため,転職への関心も少し低くなった」という話がありました。

これは,決して悪いことではありません。現在の職場で働きやすくなり,転職する必要がなくなったのであれば,それは喜ばしいことです。

求人側にも変化があります。特許事務所の経営者からは,「AIを業務で利用できるようになり,今後さらに業務効率が上がることが予想されるので,新たな採用について慎重に考えている」という話や,「AIの普及によって企業側で知財業務の内製化が進む可能性も考え,採用を慎重にしている」という話を聞くことがあります。

AIの導入によって業務が効率化されることは大きなメリットですし,AIを活用するからこそ新たに必要となる人材もあります。AIが知財業界の仕事や採用にどのような変化をもたらすのかは,未知の部分が多いと思います。

もちろん,これらはパテントサロンが聞いたいくつかの話であり,現在の求職・求人の動きをリモートワークやAIだけで説明できるものではありません。

いずれにしても,このように,働き方も,仕事の内容も,変化しています。そのような変化の中で,求職側にも求人側にも,以前とは少し違った動きが出ているのかもしれません。


みんながハッピーなら,それでいい

求人が減ること,転職する人が減ること自体は,よいことでも悪いことでもないと思います。大切なのは,その背景に何があるのかです。

働きやすい職場が増え,現在の職場で満足して働ける人が増えた結果として転職する人が減っているのであれば,それは喜ばしいことです。また,AIなどの新しい技術を活用することで仕事の進め方が変わり,それぞれの事務所や企業が自分たちに合った体制で仕事を進められるようになっているのであれば,それもよい変化だと思います。みんながハッピーなのであれば,何の問題もありません。

しかし,実際には,そうとばかりも言えないように感じています。よりよい職場を探している人は,今もたくさんいます。一方で,よい人に来てもらいたいと考えている特許事務所や企業も,たくさんあります。それなのに,両者がうまく出会えていない。求職側も求人側もまだまだハッピーになれる余地があるのです。


必要なのは100件の求人,100人の応募者なのか

求職者にとって本当に重要なのは,世の中に求人が何件あるかではありません。転職する職場はひとつです。自分に合った職場がひとつあればいいのです。

求人側にとっても,応募者が何人いるかだけが重要なのではありません。採用したい人数だけ,自分たちに合った人からの応募があればよいのです

世の中全体の求人・求職の数の多少に関わらず,求職者が自分に合った職場に出会い,求人側が自分たちに合った人材に出会うことができれば,双方がハッピーになれるのです。

では,そのような出会いを増やすために,何ができるのでしょうか。


求人広告に事務所の特徴があらわれているか

これまで知財業界の求人広告を長く見てきて,気になっていることがあります。求人広告に,その事務所や企業がどのような職場なのかを判断するための情報が,あまり書かれていないケースがあることです。

たとえば,

「弁理士募集」
「化学分野」
「給与は前職等を考慮して決定」
「リモート勤務可」

もちろん,これらも必要な情報です。しかし,これではその事務所がどのような事務所なのかよくわかりません。事務所名と住所を隠したら,どの事務所の求人広告なのか分からないかもしれない,と思うこともあります。

これでは,求職者が,

「この事務所,おもしろそう」
「ここは自分に合っているかもしれない」
「この事務所で働いてみたい」

と思うことは,難しいかもしれません。

転職希望者が多い時期には,それでも応募があり,採用につながることがありました。しかし,転職を考える人が以前より少なくなっている現在は,それだけでは人に動いてもらうことが難しくなっています。

自分たちがどのような事務所・企業なのか。どのような仕事をしているのか。どのような人たちが働いているのか。どのような考え方で事務所を運営しているのか。もっと,自分たちのことを知ってもらう必要があるのではないかと思います。


よく見せるのではなく,よく知ってもらう

ここで大切なことがあります。

「自分たちのことを知ってもらう」というのは,求人広告で自分たちを必要以上によく見せる,ということではありません。よく見せるのではなく,よく知ってもらう。これが大切だと考えています。

応募者を増やすために,求職者に受けがよさそうなことを必要以上に強調して求人広告に掲載すれば,応募者は増えるかもしれません。しかし,その内容を信じて応募し,転職した人が,入所してから「求人広告に書いてあったことと違う」と感じたらどうでしょう。その人はハッピーではありません。

そして,その結果,せっかく採用した人が短期間で辞めてしまったとしたら,採用した事務所や企業にとってもハッピーなことではありません。双方が不幸になってしまいます。

求人広告では,よいところだけではなく,大変なところや,人によっては魅力的に感じないかもしれないことも含めて,できるだけ正直に情報を伝えることが重要だと考えています。

そもそも,何が長所で何が短所なのかも,人によって違います。たとえば,「懇親会を頻繁に開催しています。毎年所員旅行もあります」という事務所があったとします。職場の人たちとの交流を楽しみたい人には,大きな魅力かもしれません。一方,仕事とプライベートを分けたい人や,そのような行事が苦手な人にとっては,魅力ではないかもしれません。

それでいいのだと思います。後者の人が応募しなかったとしても,それは求人広告の失敗ではありません。むしろ成功です。入所してから「こんな職場だとは思わなかった」となる前に,自分には合わない職場だと分かったのであれば,それも求人広告が果たした大切な役割です。そして,そのような職場を求めていた人が「自分にはここが合いそうだ」と思って応募してくれれば,双方にとって,よりよい出会いになる可能性があります。


応募を増やすことだけを目的にしない

これまで,転職先について十分な情報を得ないまま転職し,入所してから「思っていたのと違った」と感じた,という話を聞くことがありました。「もっと教育体制が整っていると思っていた」といった話も耳にします。

逆に採用側からも,「期待していた経験や能力と違った」「提示した給与と実際の能力が見合わなかった」といった話を聞くことがあります。

どちらにとっても,よい結果ではありません。

求人広告の目的を,単純に「応募者を増やすこと」と考えるのではなく,自分たちのことを正しく知ってもらい,自分たちに合った人に応募してもらうことと考えることが重要だと思います。

応募者が減ることを恐れるのではなく,合わない人が応募前に「ここは自分とは違う」と判断できることも大切です。

その一方で,本当にその事務所に合う人には,「ここで働きたい」と思ってもらう。その方が,採用側にとっても求職側にとっても,最終的にはハッピーな結果につながるのではないかと思います。


パテントサロンの役割

事務所や企業が自分たちのことをよく知ってもらうために行動を始めようとしたとき,パテントサロンは何をするのか? これまでパテントサロンは,求人スクエアという「求人情報を掲載する場」を提供してきました。これからは,もう少し踏み込んでみようと思います。

求職者は,求人広告からどのようなことを知りたいのか。どのような情報があれば,「ここで働いてみたい」「ここは自分に合っているかもしれない」と考えることができるのか。逆に,求人側は,自分たちのどのような情報を伝えればよいのか。

パテントサロンには,20数年間にわたる求人スクエアの運営を通じて得てきた知見があります。これまでパテントサロンに寄せられた意見やコメント,求職者アンケート,求人広告掲載者アンケートの回答などから得られた情報です。これらに基づいて,どのような情報を求人広告に載せると効果的なのか,そして載せた情報が求職者に確実に伝わるにはどうすればよいのかなど,考えたいことはたくさんあります。

これらについて,これから数回のコラムで伝えていきたいと考えています。

目指しているのは,求人広告をたくさん掲載することでも,応募者をとにかく増やすことでもありません。よい人と,よい職場が,お互いをよく知ったうえで出会えること。

そして,

「ここに転職してよかった」
「この人を採用してよかった」

と双方に思ってもらえることです。

そんな出会いがひとつ,またひとつと増えていき,知財業界全体が,じんわりとハッピーになっていくところまで実現していきたいと考えています。

パテントサロン管理人 大坪 和久
info@patentsalon.com