三角合併と知財と富国強兵論(Vol.4-3)

 三角合併とは、国外の親会社の株式(資金力)を使って、国内の会社(美味しそうな安い会社)を合併・消滅させることによって、企業グループの人口を増やし、資産を増やそうということである。いわゆる、「富国強兵」の方法が三角合併の本質である。簡単に言えば、「金さえあれば、人口が増える」という話であるが、はたしてそうであろうか。

 三角合併を「黒船がくる」とかいう古い鎖国時代の用語を使うことによって、その本質を曖昧にしてしまうことが横行しているが、アウトカム・ロジックの世界からすれば、単に、「比率(Ratio)」と「網脈(Network)」が作り出す「グローバル化(Globalization)」という環境に晒されるということにほかならない。

 富国強兵という4文字は、その背景に軍靴の音がするから、あまり使わない方が良いのであろうという助言もある。しかし仮に、われわれが平和を希求することの礎の上に、安全と安心を再構築することを求められているのであるとすれば、「富」は、金融資産(信用創造の債権など)であり、実物資産(土地や建物など)である。それに付け加えて、知的財産(権利の「権」が付かない範囲の資産も含む)を考える必要がある。「兵」とは、あえて区分けするならば、力仕事を担う労働者のことであり、それを指揮し方向付ける執行機関の知者のことである。それに付け加えて、それを後方から支援し、その者たちを含む消費者(生活者)のことまでも考える必要がある。「富」と「兵」を繋げるのが、しいて言えば、法制度や技術コンテンツに裏付けられた「権」という、ひらがなで「もの」と表現する手綱である。例えば、株式会社の範囲であれば、「株」がその一つの手綱となる。国レベルであれば、それは「選」という手綱になり憲法の用語が出てくるのであろう。これらの多様な手綱を、鵜飼の匠のように操ることが「強」であると考える。

 三角合併に係る課題は、突き詰めると、手続論(誰がどのような新しい手順で指導権を握るかの論点)と開示論(如何なる情報を開示し、それを良しとする相場観をいかに形成するかの論点)にまとめられる。加えて、移転論(誰から誰へと価値の移転と支配権の移転が行われたのかの論点)となる。開示論(Disclose)では、「入り(In)」と「出る(Out)」を明確にすることが基本となるはずである。手続論(Innovation)では、「出る(Out)」と「来る(Come)」を明確にすることが必要になるはずである。さらに、移転論(Transfer)では、「来る(Come)」と「置く(Put)」が論理展開の基軸になると考える。それら手続論と開示論と移転論が行き着く先には、特殊な環境が待ち受けている。推論するに、一つは「範囲(Scope)」と「規模(Scale)」が作り出す「分散化(Diversification)」という環境であり、もうひとつは、「範囲(Scope)」と「網脈(Network)」が作り出す「相互運用(Interoperability)」という環境である。

 ここまでくると、何を言っているのか理解不能に陥るかもしれない。もしそうであれば、ジグソ・パズル遊びを勧める。記載した英文字をカードにして並べて整理して図式化してみるとよい、昼時のブレーン・ストーミングにはとても良い教材である。アウトカム・ロジックの断片が見えてくるはずである。

 さて、三角合併において、攻撃側と守備側とではその対応が異なってくる。アメリカンフットボールの教則本を読みながら書いているので、このような記述になることを許していただきたい。手続論については、例えば、イノベーションを引き起こすビジネス・モデルを導入するとき、その総人口の過半数を持って合意するのか、あるいは、参加することができた者の3分の2の賛成を必要とするかという、一軍選手採択ルールの取り決めに関する論点が中心となる。さらに、移転論の中心的課題も、発生した損益の処理を将来に渡って繰り延べることができるか否かの、やはり、業績継続加算点ルールに関する決めの話である。これに対して、開示論では、攻撃側と守備側の双方に発生するアウトカムが交錯するため、いくばくかの詳細なルールの検討が必要となる。しかし、三角合併に関する開示論に係わるガイドラインは、省庁のどこかで検討されているのであろうが、その全体像が見えてこない。だぶん、十分な説明責任に基づく情報の開示がなされていないのであろう。

 開示論を掘り下げていくと、企業価値の源泉に隠されている知財が登場してくる。それゆえ、営業秘密のことや、個人情報のことや、さらには、未利用状態にある知財や防衛策に使われていた知財に関する情報をどのようにするのかということになる。事は複雑である。知財立国などと騒いでいたときであれば、「技術をタダで持っていくのか」と騒ぎ出しそうであるが、アウトカム・ロジックを知らない経営者たちに会社を任せるよりも、三角合併を戦略的に駆使するスマートな経営者に首を挿げ替えたほうが次善の良策なのかもしれない。



菊池 純一(きくち じゅんいち)
 知財評論家。長年知財価値の勘定体系はどうあるべきかを研究してきた某大学の教授。1951年生。