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知財のカテゴリーと標準化商品 (Vol.1-4)
仮に、「知財産業」というものがあったとしよう。むろん、産業の分類は、極めて曖昧な産物である。19世紀の歴史学者A.フィッシャーが17世紀の軍医W.ペティーの原案に基づいて第1次、2次、3次産業と再区分したものを、20世紀の経済学者C.クラークが、発生する所得の等級付けに応じて発展の担い手になる産業が第1次から第3次へと移動し、100年程度の周期をもって輪廻するかもしれないという程度の古典的命題に挑戦し、その国際比較分析の結果を論文にまとめたことが現在の産業分類の原点になっている。
そこで、ペティーの「ダイヤモンドの対話」という着想に基づいて話をさらに進めよう。その知財産業では、ダイヤモンドの取引と同じやり方でその価格が定められているとする。知財商人であるA氏は、技術的かつ制度的なことを考慮して求められた評価指標と価格の関係に気づいている。他方、素人のB氏は、詐欺にあわないように、自分の取引を首尾よく運ぶため色々とアドバイスを求める。それを受けて、A氏は価格の修正に応じる。このようないくつかの個別の取引事例が集まって、過度の変動をもたらさない範囲のカテゴリーが作られる。さらに、いくつかのカテゴリーが集められた段階になると、全世界にまたがる大知財商人たちは互いに知己であり、偶発的な変動の要素を修正することができる。これが、ペティー流の知財産業の成り立ちである。
なぜ、カテゴリーを作るのか。そのようにすると余剰が生まれるからである。この点については、新約聖書に書いてある、「五つのパンと二匹の魚と五千人の群集」の話につきる。詳しく知りたければ、ルカ9を読むとよい。知財のカテゴリーは、いまだに、未分化である。だから、余剰が発生しない。成長するカテゴリーは黙っていても余剰を生み出す。逆に、成熟期を過ぎ衰退するカテゴリーは、余剰を生みださなくなる。だから、新しいカテゴリーが要請される。改組転換が求められる。最近の知財産業の中で生まれたカテゴリーの代表例は、IT関連の数多くの標準化団体が提供するものである。例えば、MPEG(Moving
Picture Experts Group)の名前をそのまま使った映像データ圧縮技術の国際標準化商品がある。MPEG−4という商品では、参加している18社の特許をプールして、そのライセンス利益を一括管理するMPEGLA社が、時間割方式で価格を設定している。そして、他方、隣接領域の標準化団体であるISMA(Internet
Streaming Media Alliance)は、デジタル著作権の管理業務をコアにして、余剰を作り出している。しかし、標準化商品を無償にすべきだという動きは、インターネット社会の成熟と共に、高まってきた。例えば、W3C(World
Wide Web Consortium)やIETF(Internet Engineering Task Force)では、すでに、ロイヤルティ・フリーが主流である。今後、これらの分野で、なんらかの「公物」に関する改組転換が進むのだろう。
「公物」とは、公共の用物のことである。一番分かりやすいのは、河川法の第二条である。河川は公共の用物であり、その保全、利用、その他の管理には費用がかかる。しかし、河川の流水は、私権の目的となることができない。ただし、流水を占用しようとする者は費用を負担する。仮に、この考え方をインターネットに適応した場合、河川を構成する標準化商品の価格は無料ではないということになる。そして、その流水は無味無臭ではありえないだろうから、色の付いた流水を占用しようとする者は価格付けができる。果たして、そうなのであろうか。
菊池 純一(きくち じゅんいち)
知財評論家。長年知財価値の勘定体系はどうあるべきかを研究してきた某大学の教授。1951年生。
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