第8回 PICKHOLTZ V. RAINBOW TECHNOLOGIES, INC



[本件のポイント]

 クレーム(でコンピュータと表現し)と明細書(でコンピュータシステムと表現し、クレームと明細書中)で異なる表現をした場合、内的証拠(明細書、審査経過等)を参酌し、Interchangeablyにそれらの用語(コンピュータとコンピュータシステム)が使用されている場合、同じ物を示すと解釈される。



[背景]

 本件特許は、ソフトウエアの不正使用防止装置に関するもので、Pseudorandom Number Generator (擬似乱数発生手段:以下PRNという)が構成要件としてクレームに限定されていた。(クレームには、Pseudorandom Number Generator located in the computer と限定されていた。)

 Rainbowは、PRNを内部に有する不正使用防止装置(Dongles)を販売していた。しかし、RainbowのPRNを有する不正使用防止装置は、コンピュータ内に設けられるものではなく、コンピュータの外部からコンピュータのポートを介してコンピュータに接続される構成となっていた。しかし、PickholtzはRainbowを特許侵害で地裁に訴えた。

 Rainbowは、地裁でRainbowのPRNは、コンピュータ内に設けらるものではない、つまり、Located in the computer ではないとして、文言上非侵害を主張し、特許費侵害のサマリージャッジメントをファイルした。また、Pickholtzは特許侵害のサマリージャッジメントをファイルした。

 地裁は、Pickholtzの特許侵害のサマリージャッジメントを否決し、被告であるRainbowのサマリージャッジメントで特許非侵害の判断を下した。これに対し、Pickholtzは地裁の判断を不服として、CAFCに控訴した。

 本件での、論点は、Computerとはなにか、Located in the computerの文言解釈であった。



[地裁の判断]

 地裁は、Rainbowの主張を認め、コンピュータは、(データ処理を可能にするマイクロチップシステムを構成する)CPU及びサーキットボードに設けられたメインメモリを示し、(コンピュータに)接続された周辺機器は含まないと解釈した。この結論に至った第一の理由は、明細書中の図1の説明でコンピュータシステムという用語を使用し(コンピュータシステムは、CPU、メインメモリ、PRNおよびディスク等の周辺機器を含むと説明し)、クレーム中でコンピュータという用語を使用していた点に注目し、コンピュータとコンピュータシステムは異なるものであるため、コンピュータは、(データ処理を可能にするマイクロチップシステムを構成する)CPU及びサーキットボードに設けられたメインメモリを示し、(コンピュータに)接続された周辺機器は含まないと解釈した。また、第二に、地裁はクレーム中でPRNの設けられている位置を表現するのに、located in the computerと限定していた点に着目し、PRNをコンピュータに含めることは、この限定を意味の無い物するとした。そして、Rainbowは特許侵害のサマリージャッジメントをファイルした。また、Rainbowは、RainbowのPRNを含む装置は、コンピュータに接続される物であり、本件クレームは、PNRがコンピュータ内に設けられるものであるため、文言上非侵害とし、サマリージャッジメントをファイルした。これに対し、地裁は、非侵害のサマリージャッジメントの判断をした。これに対し、原告であるPickholtzがCAFCに上告したものである。



[CAFCの判断]

 CAFCは、クレーム解釈において、明細書、審査経過(内的証拠)から判断して、コンピュータとコンピュータシステムは同意語として使用されているため、本件特許では、コンピュータシステムとコンピュータは異なるものであるという示唆は無い。さらに、明細書、審査経過では、両者をInterchangiablyに使用している。よって、コンピュータシステムとコンピュータは異なるものであるとするのは誤りであるとし、CAFCは、地裁の文言解釈に誤りがあるとした。また、CAFCは明細書の記載からして、コンピュータは、ある程度の周辺機器をも含む記載となっており、さらに、Rainbowの装置はそのある程度の範囲の周辺機器に含まれると判断した。

 このように、CAFCは、上告人である原告の文言判断を認めたが、いくつかの点で事実関係にまだ争いがあるとして、地裁に本件を差し戻した。



[筆者コメント]

 まず、本件で注意しなければならないのは、この判例が(特にコンピュータとコンピュータシステムの解釈が、どのケースにも当てはまるわけではないと言う点である。本件の判旨(明細書と審査経過でInterchangeabkeに使用されていたかどうか)に沿い、ケースバイケースで判断すべきである。

 また、本件では、明細書とクレームで、コンピュータとコンピュータシステムという異なる用語を使ってしまったために、被告に議論の余地を与えることとなったケースである。CAFCは最終的には、コンピュータとコンピュータシステムが同意語であるとし、原告の主張を認めたが、文言を統一して使用する必要性を示した判例と言えよう。(訴訟では、できるだけ、相手につけこむすきを与えないのが鉄則であるが、本件の場合、被告にすきをつれた形となっている。今回の場合は、運良く、明細書、包帯の記載が原告に有利なように記載されていたから良かったものの、これが、一言でも、コンピュータとコンピュータシステムが異なるものであるような記載があったならば、今回の判決は、逆の文言解釈となった可能性がある。)

 また、本件では、明細書の作成者が、使用する文言を十分理解せず、明細書に使用したために、2つの文言を明細書とクレームで使用してしまったものと考えられる。このように、明細書を書く際、文言を十分理解し、必要であれば文言の意味を調査するあるいは、明細書で定義する等の対策の必要性を示した判例と言えよう。



 本論文は、具体的な法的アドバイスをするものではなく、一般論を述べたもの。事実関係により、この判例はケースバイケースで適用されるべきであり、具体的事例については、米国弁護士の鑑定をとる必要がある。また、本論文から生じた一切の損害には責任を負いかねます。



今泉 俊克(いまいずみ としかつ)
 米国特許弁護士。1962年、東京都出身。1985年中央大学理工学部電気工学科卒業後、1985年-1995年(株)リコー法務本部勤務。1995年-1998年駐在員としてRicoh Corporationに勤務。(ワシントンDC駐在) 1997年米国Patent Agent Exam合格(Limited Recognition)。2001年 Franklin Pierce Law Center卒業(Juris Doctor取得)。現在、Rader, Fishman & Grauer PLLC (ワシントンDC)で、主に特許出願手続き、意匠出願手続き、特定分野の判例の調査、法案の調査、判例に基づく米国出願用英文明細書の作成を行っている。2003年2月ワシントンDCの司法試験に合格。趣味:カニ釣り、下手なゴルフti@raderfishman.com