第14回 クレームの「おいて書き」に記載される文言の解釈


INTIRTOOL LTD v. TEXAR CORP


[本判決のポイント]

 「おいて書き」の文言解釈において、クレームの本文(「おいて書き」以下)に構成的に完成した発明が記載されている場合、すなわち、「おいて書き」の記載を削除したとしても、クレームされた発明の構成またはステップに影響を与えない場合、審査経過において「おいて書き」への明確な依存がない限り、「おいて書き」の記載はクレームの限定とならない。


[背景]

 Intritoolは、Texarの製品が米国特許5,022,253(重なった鉄のシートに穴をあけるツールに関する発明)を侵害するとしてテキサス州東部地区連邦裁判所に訴えた。地裁は、Intritoolの'253特許は米国特許法第112条(記載不備)により無効であると判断した。(なお、本判決では、不公正な行為(Inequitable Conduct)、ラッチェス(Laches)についても議論されているが、本稿では取り上げない。)

 地裁は、クレーム1の「おいて書き」に記載される「connecting」は、クレームを限定するものであり、また、明細書にはシートを「connect」する点について開示されていないため、'253特許は記載不備により無効であると判断した。

 なお、クレーム1のおいて書きは、「 A hand-held punch pliers for simultaneously punching and connecting overlapping sheet metal such as at the corners of overlapping ceiling tile grids comprising:」というものであった。

 なお、「connecting」がクレームを限定するものであるとした地裁の判断理由は、審査手続きにおけるIntritoolの主張に基づいていた。すなわち、Intritoolが審査経過において「発明のツールは、天井の格子に穴をあけ、接続「connect」することができるものである」と主張した点を取り上げ、地裁は、「おいて書き」に記載される「connecting」がクレームの限定となると判断した。

 これを不服としたIntirtoolは、CAFCに控訴した。


[CAFCの判断]

 CAFCは、「おいて書き」の文言解釈のルールについて、以下の様に述べた。

「もし、クレームの「おいて書き」に、クレームの本質的は構成またはステップが記載されている場合、あるいは、「おいて書き」の記載が、クレームに生命力(life and vitality)を与えるのに不可欠である場合、「おいて書き」に記載される構成であってもクレームの限定となる。言い換えると、クレームの本文(「おいて書き」以下)に構成的に完成した発明が記載されている場合、すなわち、「おいて書き」の記載を削除したとしても、クレームされた発明の構成またはステップに影響を与えない場合、審査経過において「おいて書き」への明確な依存がない限り、「おいて書き」の記載はクレームの限定とならない。」

 CAFCは、本件について、クレーム(の本文に記載)において完成した厳格な構成上の詳細が記載されており、また、審査経過でもIntirtoolは、「おいて書き」ではなく、クレームの本文の構成についてのみ主張していると判断した。すなわち、審査経過において、Intirtoolは「おいて書き」の構成の重要性を主張しているわけではないと判断した。 

 さらに、CAFCは審査経過について、審査経過中の主張に含まれる「hand-held punch pliers … which simultaneously punches and connects」という点については、Intirtoolが単に発明の利益あるいは特徴を述べたに過ぎず、Intirtoolが特許の重要性を主張するためにそれに依存したわけではないと判断し、地裁のクレーム解釈には誤りがあったと判示した。

 また、CAFCは、地裁の誤ったクレーム解釈に基づきなされた明細書の記載不備の決定には誤りがあるとして、地裁の無効の決定を棄却した。


[筆者コメント]

 クレームの「おいて書き」についての判例はこれが初めてのものではなく、今までに数多くの判例が出ている。しかし、この判例では、今までの判例で出されたルールをわかりやすく示した点で注目される。

 また、この判決では、「おいて書き」に「connecting」という不要な構成要件を加えてしまったために、被告に反論の隙を与えてしまったケースである。CAFCにおいて、地裁の特許無効の判断は棄却されたが、Intirtoolは、CAFCの今回の判決を得るまでに、多大な訴訟費用と支払うこととなってしまった。もし、クレームを作成した弁護士あるいは弁理士が、もう少し注意深くクレームの文言を選択していれば、その多大な訴訟費用を削減することができたものと思われる。

 このように、クレームの「おいて書き」には、できるだけ不要な文言をいれず、クレームの必須要素のみをクレーム本文に入れるということを心がけることで、今回のような無用な争いを避けることができたのではないだろうか。



今泉 俊克(いまいずみ としかつ)
 米国特許弁護士。1962年、東京都出身。1985年中央大学理工学部電気工学科卒業後、1985年-1995年(株)リコー法務本部勤務。1995年-1998年駐在員としてRicoh Corporationに勤務。(ワシントンDC駐在) 1997年米国Patent Agent Exam合格(Limited Recognition)。2001年 Franklin Pierce Law Center卒業(Juris Doctor取得)。現在、Rader, Fishman & Grauer PLLC (ワシントンDC)で、主に特許出願手続き、意匠出願手続き、特定分野の判例の調査、法案の調査、判例に基づく米国出願用英文明細書の作成を行っている。2003年2月ワシントンDCの司法試験に合格。趣味:カニ釣り、下手なゴルフti@raderfishman.com











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