第11回
 Remote Locationとはどの程度離れた位置かを判断したケース



Brookhill-wilk 1, LLC v. Intuitive Surgical, Inc.


1.本判決のポイント

 一般的なクレームの文言解釈では、第一ステップとして、クレームの文言は「当業者が通常使用する意味(ordinary and customary meanings)」を有するという推定が与えられる。その推定された文言解釈は、参考文献等を参照して行われる。その推定された文言解釈と異なる解釈を主張する当事者は、その推定を覆すために、内的証拠(明細書、審査経過)に基づいて、その推定に反論しなければならない。もし、内的証拠で解決しない場合は、外的証拠を参照することが許される。

 しかし、本判決では、原告および被告の異なる2つの解釈が、当業者が通常使用する意味として参考文献でサポート(つまり、原告および被告のことなる解釈が共に正しいと推定)されたため、明細書の記載に基づいて、どちらの解釈を採用するか検討された。

 本件では、原告、被告による「Remote Location」のそれぞれの解釈が、参考文献でサポートされるため、明細書、審査経過を参酌した結果、「Remote Locationは手術室内をも含む、ある程度はなれた場所である」とする原告の解釈が採用された。(この論文の終わりに本判決で争そわれた「Remote Location」の解釈に関する表を添付したのでご参照いただきたい。)


2.背景

 原告であるBrookhill-will 1(以下Brookhillと言う)は、Intuitive Surgical (以下Intuitiveと言う)を、Brookhillの所有する米国特許5,217,003で地裁に訴えた。

 問題の特許に記載される発明は、医師が、患者から離れた場所(Remote Location)で、患者の体内に挿入されたカメラ、医療機器を遠隔操作し、患者に対し手術を行うというシステムおよび方法に関するものであった。(クレームには、「A remote location beyond a range of direct manual contact」ように記載されていた。)

 地裁では、特にクレーム中の文言「Remote Location」の意味が争われた。

 すなわち、「Remote Location」は、「(医師が)患者のいる手術室内で(そのシステムを操作する場合も含む)」と解釈されるのか、あるいは、「(医師が)患者のいる手術室外で(システムを操作する)」と限定解釈されるのかが争われた。

 地裁は、辞書等により「Remote Location」の意味を特定できず、問題特許の明細書の目的、効果、審査経過を参照し、「医師は患者のいる手術室外の場所で操作する」と解釈されると判断した。

 これに対し、Brookhillは、地裁の判断を不服としてCAFCに控訴した。


3.CAFCの判断

 IntuitiveはCAFCにおいて、クレームの限定、目的、従来技術での記載、実施例により、「Remote Location」は、「(医師は)患者のいる手術室外の場所(でシステムを操作する)」と限定解釈されると主張した。CAFCは、まず、クレーム解釈の一般的ルールを以下のようにのべた。
「一般的なクレームの文言解釈では、まず、そのクレームの文言は当業者が通常使用する意味を有する」という推定が働く。その意味は、いろいろな参考文献を参照して行われる。その推定される解釈と異なる解釈を主張する当事者は、その推定を覆すために、明細書、審査経過に基づいて、その推定に反論しなければならない。」
 まず、CAFCは、このルールに基づき、ウエブスター(英・英辞典)に基づく原告、被告の解釈について述べ、「両者の解釈は、いずれも、参考文献によりサポートされ、更なる内的証拠(明細書、審査経過)をみる必要がある」と判断した。

 CAFCは問題特許明細書に記載の目的、効果、Preferred Embodiment、従来技術の記載を参照し、特に距離のパラメータについては述べておらず、また、手術室で医師がそのシステムを操作することができる点を否定あるいは放棄もしていない。よって、明細書の記載は、「その発明は、医師がある距離から、手術をすることができる」というものであり、「Remote Location」は「患者のいる手術室内(で医師がシステムを操作する場合)」をも含むと判断した。以下に、明細書の各項目についてCAFCが行った判断を示す。

(1) 目的
 問題特許の目的として、「世界中から、手術をすることができ、コストを低減することができる。」と記載されていた。CAFCは、その目的の記載は、いくつかの目的の1つに過ぎないとし、「Remote Location」という文言は手術室外に限定解釈されるものではないと判断した。

(2) 効果
 発明の効果に相当する記載において、「テレコミニュケーションおよびコンピュータを通し、遠隔地の医師とコミュニケーションを取ることができる。」と記載されていた。CAFCは、「効果」として記載される点は、それだけで、発明を限定するものではないと判断した。

(3) 従来技術
 従来技術の記載では、「従来の手術は、患者のいる手術室で医療器具を直接使用し手術が行われていた。」と開示されていた。これに対し、CAFCは、単に「従来の手術では、医師が患者のいる手術室にいる」という記載だけでは、「Remote Location」が「医師が患者のいる手術室外で操作する」点に限定解釈されるものではないと判断した。

(4) Preferred Embodiment (実施例)
 明細書の実施例には、「医師は世界中から手術することができる」と記載されていた。CAFCは、実施例には、手術室外からのみ使用できる」とは記載されておらず、限定解釈されないと判断した。

 このように、CAFCは、明細書を検討した後、審査経過を参照したが、手術室外であることに特許性を主張しておらず、「Remote Location」は手術室内、外ともに含むものであると判断。よって、CAFCは、地裁の判断を棄却し、地裁に差し戻した。


4.終わりに

 本判決は、原告および被告それぞれの異なる解釈が、当業者の使用する意味でサポートされる場合(つまり、原告および被告のことなる解釈が共に正しいと推定される場合)についての判断方法を示す重要な判例である。

 この判決から学べることは、特に定義しないクレームの文言は、出願当時の文献、辞書等により判断されえるため、辞書等の定義を頭において、クレーム、明細書をドラフトしなければならないということである。しかしながら、辞書の定義、特にアメリカの辞書の定義を気にして明細書を書くことはなかなかできない。

 しかしながら、辞書の定義より、明細書の定義が優先されるため、一番大事なことは、クレームに記載した文言が、明細書でどのように定義されているかである。つまり、クレームに記載される表現は一言一言、明細書で、十分広く定義されているかを検討する必要がある。

 本判決の場合、「Remote Location」が手術室内をカーバーするのか否かが争われたが、もし、明細書に、一言でも、「手術室内からでもシステムを操作することができる」と記載されていれば、今回のように莫大な訴訟費用を支払って争う必要はなかったのではないか?

 今回の判決のように、距離の関する文言をクレームで使用する場合、すべての場合を想定して、それに対応する内容を明細書に開示する必要がある。もし、すべての距離を含むものであれば、もちろん、その距離の限定は不要であることになる。しかし、距離の限定を入れるからには、少なからず、その距離に意味があるはずで、その距離の限定の本質を見極め、明細書で全てのカバーできる距離を網羅するよう記載する必要がある。(あらゆる可能性を記載する必要がある。)これにより、将来の訴訟で、相手に隙を与えないこととなる。

 これは、当たり前のことのようであるが、なかなか、実行するのは難しいのではないか。

 最後に、目的についてCAFCの判断は、先例と異なる判断である可能性があるので注意が必要。

 

 

Intuitive (被告)

Brookhill (原告/控訴人)

原告、被告それぞれが主張した “remote location”の解釈

a “remote” location is at least as far as to be outside of the operating room and connotes long distances, well beyond the arm’s length separation asserted by Brookhill

a surgeon located at any distance beyond arm’s length is at an “interval greater than usual,

辞書におけるRemoteの定義

Webster’s Third New International Disctionary 1921 (Merriam-Webster 1993)

Defined “remote” as “separated by intervals greater than usual; … far removed; not near; far distant.”

原告、被告が採用した辞書の定義

far apart . . . far removed; not near; far; distant.”

separated by intervals greater than usual.” 

Intuitiveの製品

Intuitive’s system is located in the same operating room as the patient.

 

地裁の判断

The district court interpreted the limitation “remote location” as meaning a location outside the operating room where the patient undergoing surgery is located.”

CAFCの判決

The court construed the term “remote location” to encompass not just locations that are far apart or distant, but also those locations that are merely separated by intervals greater than usual.   The location need not be outside the operating room.

  


今泉 俊克(いまいずみ としかつ)
 米国特許弁護士。1962年、東京都出身。1985年中央大学理工学部電気工学科卒業後、1985年-1995年(株)リコー法務本部勤務。1995年-1998年駐在員としてRicoh Corporationに勤務。(ワシントンDC駐在) 1997年米国Patent Agent Exam合格(Limited Recognition)。2001年 Franklin Pierce Law Center卒業(Juris Doctor取得)。現在、Rader, Fishman & Grauer PLLC (ワシントンDC)で、主に特許出願手続き、意匠出願手続き、特定分野の判例の調査、法案の調査、判例に基づく米国出願用英文明細書の作成を行っている。2003年2月ワシントンDCの司法試験に合格。趣味:カニ釣り、下手なゴルフti@raderfishman.com























本事件の判決文は
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