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知的財産の価値評価
―特許権の証券化と積極的活用に向けて
鈴木 公明 (著)
インタ-クロスメディアステ-ション
我が国において、特許権をはじめとした知的財産権の価値評価、財産的活用−通称「知財ファイナンス」は、ようやく始まったばかりである。しかし、その全容は未だベールに包まれており、ごく限られた専門家の牙城であるという感が強かった。その理由は明らかである。特許権の証券化を語るには、伝統的な証券スキームに関する実務的・法的知識に加えて、特許や技術に対する憧憬ともいうべき深い理解が必須となるからである。これらの知識をあまねく有し、あるときにはファイナンスの世界を、あるときには知財の世界を、自由に飛翔できる思考力の持ち主は、我が国には存在しないと思ってきた。
筆者・鈴木公明氏は、キヤノンの知財部勤務を経て特許庁に入庁した現役の特許審査官であり、知る人ぞ知る我が国の知財ファイナンスの第一人者である。本書は単行本としては鈴木氏のデビュー作にあたるが、「知財ファイナンス」という入り組んだ森を描いた出色の著である。
本書はこれまで刊行された知財ファイナンスに関する著作のいずれをも遙かに凌駕し、あたかも「小宇宙」と呼ぶにふさわしい奥行きを誇る。序章に現れる著者の「特許」とその「マネジメント」に対する深い理解、それがやがて企業経営に必須な「資金調達」というテーマに展開し、金融工学の香りを放つ格調高い「特許評価」に関する論述で締めくくられる。一人の人間がここまでの奥行きを表現できることは驚異であり、鈴木氏の卓越した才能と見識を感じさせる。
驚くなかれ、本書はわずか60ページあまりの小冊子 (\700)である。それゆえに、本書は知財ファイナンスの格好の入門書でもある。評者は「ファイナンス」に関してはずぶの素人であるが、一朝の通勤途上でほぼ読破してしまった。それほどに、本書は本質を平易に語りかけ、何のムダも抵抗感もなく読者に訴えかける。「知財ファイナンス」というなじみのない分野だからこそ、分厚い装丁ではなく小冊子であることがこの本の魅力なのである。
本書が知財ファイナンスに関する啓蒙書として多くのビジネスマンや経営者に読まれ、産声を上げた我が国の「知財ファイナンス」という赤ん坊が、可憐な少年から逞しい青年へと成長していくことを祈ってやまない。 |
2003.8.1
弁護士・鮫島正洋 |
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