知財のETC (Vol.3-2)

 特許の審査待ちの行列が50万件あるという。そのようなものを滞貨、あるいは、構造的な不利益という。この待ち行列をなくすため色々な工夫がなされている。通称、「マル早」という方式で処理するとその滞貨が流れ出し、少なくなるはずだが、対象が限定されているから年間5千件程度にとどまっている。また、特許戦略の中身が見えてしまうという理由もあって、嫌われているのである。来年からは、審査を取りやめたら半金返しというインセンティブをつけてみることも考えているらしい。さらに、「迅速・的確な審査」を目指し、「補正、分割の弾力的運用」を検討している。特許庁が建てる筋道としては理解ができる。

 しかし、なぜ、滞貨なのか。特許庁の定員を増やせばよいのではといってしまえば、それまでの話なのだが、そのようにできないのが今のご時世である。むろん、外注による支援も増やしていはいる。

 他方、特許の審査請求をする企業の方はどうなっているのだろうか。企業活動基本調査(経済産業省)によれば、特許の稼働率は、1996年以降上昇傾向にあり、34.9%台から、最近は40.7%台となっている。不況期の中で保有する特許を活用するための努力が続いている。また、日本政策投資銀行の2003年8月調査によれば、研究開発費の支出計画は、前年度比で、4.8%増と増加基調にある。さらに、新しい特許の審査請求が増えてくるのであろう。

 しかし、これはマクロ的な表面の話である。少し、その中を分解してみると、不思議な構図が見えてくる。2003年1月に実施された、「今後の企業における特許の価値評価に関するアンケート調査」((社)発明協会、委員長菊池純一)に基づくならば、有効回答企業591社中、243社、つまり、41%の企業が、「未利用の保有特許が多い」と回答している。特に、特許保有件数が5000件を越える企業においては、その26%の企業が未利用状態の特許多く、新たな戦略を考える必要があると考えている。さらに、特許保有件数が500件以下では、43%の企業が特許の戦略ミスを認めている。困ったものである。使えない特許を持ちつづけている。そして、もしかするとさらに最悪なことには、使えないかもしれない割高の特許を出願し審査を受けようとしている企業が存在するのである。この背景には、日本企業の内部に潜む、戦略的かつ選択的判断をするための人材不足、あるいは、技術動向に関する情報不足という事情がある。

 特許をいかに利用するかは、特許庁の管轄外である。企業の判断ミス、あるいは、人材不足が原因となって、滞貨が増加し、かつ、審査制度の改変を行わざるを得ないのであるとしたならば、明らかにこれは、外部化された構造的な不利益といわざるをえない。

 今、例え話として、360キロをだせるETCが付いたスポーツカーと180キロがメーター限界の中古の国民車があった場合、そのどちらを選択するのかは個々それぞれの事情であるとする。そして、それらの車が、同じ料金を払ったうえで高速道路の走行車線と追い越し車線のどれを選ぶかについても、やはり個々それぞれの事情であるとする。しかし、料金所で長蛇の渋滞の中に二種類の車が混在するような場合には、やはり、ETC専用の窓口を設けて仕分ける必要がある。



菊池 純一(きくち じゅんいち)
 知財評論家。長年知財価値の勘定体系はどうあるべきかを研究してきた某大学の教授。1951年生。